新著ブログ公開:『爽やかな風ー宗教・人権・部落問題』(第19回:最終回)





         爽やかな風


     −宗教・人権・部落問題ー


            第19回



      あとがき


 人生は真に不思議なものですね。ひとのいのち、ものの誕生にはもともと「授かりもの」という不思議から始まっていますが、「はじめに」にも触れましたように「この子のいのちは3ヶ月もつかどうか」と危ぶまれながら、この歳になっても護られていま、このように「あとがき」を書いているのですからね。


 不思議といえば本書をまとめるに至った経緯も不思議なことでした。このたび○○社の文化出版部の方から、拙著『賀川豊彦の贈りもの―いのち輝いて』を一読したいので送ってもらえないかという速達が届きました。なんでも社内の人が拙著を或る図書館で見て、これは「非常に興味深い作品だ」という報告があったのだそうです。


 早速手元の1冊を贈ったところ、2週間程してA4の2頁にわたる「作品講評」なるものが、○○社の「出版システム」など資料類と共に、また速達便で送られてきました。私自身はいまや「隠居の身」、この恵まれた時を活かしてブログなどで発表・交流の楽しんでおり、新たな本づくりへの企図はなく、見事な「作品講評」には驚かされつつも、その旨返信いたしました。


 ところが、ここがこの出版社のねらいだったのでしょうが、思ってもみなかった新著刊行への夢がずんずんと湧き出してきたのです。そして毎日ぶらり散歩をしながら、旅先にあっても、その構想をめぐらせることになり、新しく生まれでたのがこの著作でした。


 はたして本書が、これまで多くの混迷と曖昧を帯同してきた「宗教・人権・部落問題」をめぐる諸課題に、「確かな基礎」に立ち返り、そこからの積極的・創造的な知見を指し示す「爽やかな風」となる、ひとつのきっけとなり得ましたかどうか。


 お読みいただいた第2章「新しい歴史の創造とわたいたち」は、恩師・滝沢克己先生が生前の薦めがあって、名もなきわたしの論攷がはじめて総合雑誌の特集(1977年1月号)に収まったものです。そして第3章「宗教の基礎―部落解放論とかかわって」は、1983年8月に発表して先生のもとにお送りし過分のお褒めをいただいたもので、滝沢克己先生は惜しくも急病のため1984年6月、75歳のご生涯を終えられましたが、改めていま、本書を滝沢克己先生へお捧げいたしたく存じます。


 第5章は神戸における部落問題研究の仕事上の恩師・杉之原寿一先生を追悼する特集号に寄稿したもので、これを本書に載せることができたのも、わたしにとってとても幸いなことでした。


 そのほか全編にわたり触れていますように、わたしにとってもうひとりの大切な先達に延原時行さん(「先生」とよばねばなりませんが)がおられます。彼は同志社大学神学部の学生時代から現在まで、ずっと途切れることなく、わたしたちとの友情をむすんでもらい、大切な節目にはそのつど、巧まずして適切な生きるヒントを頂き、牧師として・神学者として・さらに哲学者として、こんにちますます独創的で活発な著作活動に打ち込んでおられます。


 いまのわたしの同時進行の六つのブログのうちのふたつが、世界に公開されて自由に愛読いただいています。ひとつは「延原時行歌集」 http://plaza.rakuten.co.jp/40223/ 、もうひとつは「延原時行著作集」(ただいま十一冊目のブログ公開) http://d.hatena.ne.jp/keiyousan+torigai/


 上記のブログで謳われる延原さんの毎日の「歌集」は、とくにひろい読者をえているようですが、これをUPする毎朝のつとめも、よろこびの一時です。如何なる窮境の中でも、人生を信頼して豊かに強く生きることのできる秘密が、深い省察の中で表現され、その妙味が歌となって溢れ出ています。


 ともあれ、本書は堅苦しい主題であるうえに、わたしの拙く読みずらい文章を、最後まで読み通していただいて、ありがとうございました。


  2013年1月2日
                番町出合いの家牧師
                        鳥 飼 慶 陽
 

 奥付

 鳥飼慶陽(とりがい・けいよう)
1940年鳥取県生まれ。1964年同志社大学大学院神学研究科卒。日本基督教団仁保教会・神戸イエス団教会を経て1968年より日本基督教団「番町出合いの家」を創設し在家労働牧師の実験を始め現在に至る。この間、ゴム工員・神戸市教育委員会嘱託・神戸部落問題研究所事務局長など務め、NPOまちづくり神戸・高齢者生協・労協・福祉法人等に関わり、神戸市外国語大学甲南女子大学中京女子大学阪南大学・神戸保育専門学院で非常勤講師を務める。
著書 『部落解放の基調―宗教と部落問題』(創言社、1985)、『賀川豊彦と現代』(兵庫部落問題研究所、1988)、『賀川豊彦再発見』(創言社、2002)、『賀川豊彦の贈りもの―いのち輝いて』(創言社、2007)ほか共著・編著・論文多数。
住所 神戸市長田区一番町3丁目1番地3−1119