新著ブログ公開:『爽やかな風ー宗教・人権・部落問題』(第1回)




              爽やかな風


        ー宗教・人権・部落問題ー
         

                                   
                はしがき


 もうすぐわたしは73歳を迎えます。若い友だちからはや「ご隠居」呼ばわりされながら、相変わらずマイペースで、モグラ暮らしをつづけています。


 先年100歳を目前にした母が、兄夫婦に見守られて御元に召されました。わたしの父はうんと早く、異郷の地「満州」(中国東北部)にあって、戦争の末期(1945年3月)に、30歳台半ばの若さで亡くなりました。「ダンゴ3兄弟」の三男坊のわたしは、産まれてすぐ父の結核で小児結核に罹り、「この子は3ヶ月はもつまい」と危ぶまれつつも護られ、中学に進むころからは体力を取り戻して野球部に入り、球拾い兼マネージャーとして熱中、高校生に・・・。将来は小学校の教師になる積りで学ぶなか、山陰・倉吉にあるキリスト教会に出入りし始めます。牧師夫妻の強い影響もあって、わたしの進路を「牧師の道」に変更・・・。同志社大学神学部の6年間の修行を経て、激動の時代を只一筋、こんにちまで「ちょっと変わった牧師の道」を生きてきました。


 1964年春卒業後の、いわば青春時代のあゆみの概略は、『在家労働牧師を目指して――番町出合いの家の記録』として、最近のブログのなかにUPしました。振り返れば、わたしたちの「新しいスタート」は、やはり1968年春からのよろこびのうちに開始した小さな実験「番町出合いの家」の創設でした。自ら汗を流して労働し、この歴史の中で「信じて生きる」道を踏み出したときでした。


 誰でもしているように、毎日せっせと働き、地域でまちの人たちと共に生き、生活の中で学びあう・・・・このような、人としてあたりまえの生活のかたちを自ら知ることで、生きている「いま・ここ」が、いよいよ掛け替えのないものとして甦り、毎日が新しくに受け止められていくのでした。


 しかもわたしたちの新しい生活の場所が、当時はまだ一般に「未解放部落」など呼ばれていて、厳しい差別的な実態が未解決のまま放置されていたまちでした。国際都市神戸のどまんなかに、こうした大都市部落がいくつも存在し、人々に苦悩を強いていました。


 このまちのひとの紹介で、わたしたち親子4人の生活のできる「文化住宅」(6畳一間でトイレ共用)を借り、ここが世界一小さな「番町出合いの家」という公認の伝道所となり認可されたのでした。また仕事場も、まちの多くの人が働くゴム工場のロール場というところで、まだその時は職人としての腕はありませんでしたので、雑役という役柄でしたが、職安(いまのハローワーク)で見つけて、家族4人の新生活が始まったのです。


 ですから、新しい生活の当初より「未解放部落」の解放の課題は「わがこと」となっていきました。ご存知の方もあるでしょうが、1969年にはやっと問題解決に向けた法的措置が施行されます。そしてその活動も本格化し、この頃から部落問題をめぐる「疾風怒濤」の時代に入っていくのです。それ以後の動向と現在の状況については、本書のなかにいくらか立ち入って書き記しています。


 ここに収めた作品の主題は、若き日から現在まで、省察をかさねてきたライフワークそのもので、その中から六章構成として生まれでました。当初本書の表題は、第1章の副題『宗教・人権・部落問題』を考えていました。もともとしかし、この主題を省察してきたわたしの基調は、やはりここにも既に「爽やかな風」がわたしたちを包んでいたもので、この「風に吹かれ」、この「風に乗って」、より確かな積極的な一歩をあゆみ出すことが、わたしたちの願いでもありました。そういうことから、本書の命名は、第1章のなかの小見出しからこの言葉―「爽やかな風」―を取り出してみたのです。


 なお、本書をお読みいただいた方で、ネットを活用しておられる場合は、いま同時進行の六つのブログがありますので、理解を深めて頂く上でもそれらを覗いてくだされば、面白いのではと思います。


 因みに、わたしの六つのブログの「総目次」は
 http://ameblo.jp/taiwa123/


 に収めてあり、他の五つのブログは以下のとおりです。


「番町出合いの家 TORIGAI」  http://plaza.rakuten.co.jp/40223/


「対話の時代 宗教・人権・部落問題」 http://d.hatena.ne.jp/keiyousan/


賀川豊彦の魅力 TORIGAI」
 http://keiyousan.blog.fc2.com/


「延原時行・滝沢克己 新しい対話的世界」 http://d.hatena.ne.jp/keiyousan+torigai/


岩田健三郎画文集」
 http://deainoie.fukuwarai.net/


 本書の構成は、目次の通りですが、各章の冒頭にそれぞれの初出など、短いコメントを付記して全体の流れをつかんでいただけるようにいたしました。「である」調のものも含まれていますが、あえて統一をせず初出のままにしています。


 いま「はしがき」を記しているところに、「週刊朝日」の橋下氏に関わる連載記事(初回のみで中止となった問題)で「朝日新聞出版社長が辞任」という報道が流れてきました。本書においても第4章と第6章で「表現の自由」に関する基本問題と出版・報道のあり方に言及しましたが、マスコミと出版界では今日も「部落問題の基本認識」が不足していることが気になりますね。これは解放運動の残滓・傷跡のひとつですけれども。この分野にも本書が「爽やかな風」を届けることができれば嬉しく思います。そして開かれた新しい対話(相互批判)と出合い(学び合い)が進展していくことを楽しみにしています。


 2012年11月

     
                 番町出合いの家牧師
                   
                     鳥 飼 慶 陽



 

             目次


   はしがき


第1章 「対話の時代」のはじまり―宗教・人権・部落問題
  第1節 万人のこととして
  第2節 宗教は面白い
  第3節 「人間の権利」って何だろう
  第4節 「対話の時代」のはじまり


第2章 新しい歴史の創造とわたしたち
  第1節 晴朗なる徴表
  第2節 部落問題との出合い
  第3節 新しい歴史とその創造


第3章 宗教の基礎―部落解放論と関わって
  第1節 「宗教と部落問題」素描
  第2節 宗教の基礎(その1)
  第3節 宗教の基礎(その2)


第4章 部落問題の解決と賀川豊彦
  第1節 神戸の「被差別部落」と賀川豊彦
  第2節 賀川豊彦と「部落解放運動」
  第3節 賀川豊彦の部落問題認識


第5章 回想――杉之原寿一の人と業績


第6章 朝日新聞連載「差別を越えて」を読む


   あとがき