「KAGAWA GALAXY 吉田源治郎・幸の世界」(35)シュバイツァー「原生林の片隅にて」を読む



KAGAWA GALAXY吉田源治郎・幸の世界」(35)


http://k100.yorozubp.com長期連載(150回)補充資料


第5回 「シュバイツァーの「原生林の片隅にて」を読む」(7)
吉田源治郎訳 シュバイツァー著『宗教科学より見たる基督教』
(原題『世界の諸宗教と基督教』)付録。大正14年9月8日、
警醒社書店より刊行


 シュワイチェルの「原生林の片隅にて」を読む


                           吉田源治郎


              三 オグオエの流域


      (つづき)
 

 彼の活動の中心地、ラムバレンは、赤道の少し南に位する。だから、気候は南半球のそれだ。欧州の夏はここでは冬の時候に当る。冬の特徴は、乾燥である。乾季は、五月末から始まって、十月初旬に及ぶ。夏は、十月半から五月まで。此間が雨期で、十月初旬から十二月中旬まで、及び、一月中旬から五月末までが冬雨期に当る。クリスマス前後の三四週間は、模範的な夏の天気で、寒暖計は、最高を示す。雨期の日陰温度は平均八十二度から八十六度、乾季のそれは、七十七度から八十二度(いづれも華氏)。夜の温度は、日中と大差がない。


 気候や食物の関係や、過度の湿気のために、欧州人は一年もここに滞在すると貧血や、神経衰弱にかかる。二三年の間には、仕事が出来ない迄に健康を害する。ギ二ア湾口にあるリーブルヴイル所在の人口の死亡率(一九〇三年調査)は、一割四分に昇っている。


 オグオヱの低地には約二百人の白人――1耕作、材木切り出し、商人、役人、宣教師等が住んでゐる。土人の人口密度は、頗る希薄だ。今日此地方には、僅に昔盛んであった八種族の名残を見るのみだ。八種族のうらのオルング族は、絶滅した。ジムバレン地方に住むガロアス族は、それでも八万の人口を持ってゐると云はれる。


 何がかく人口の減少を招いたかーー我々はそれを知るには、過去三百年間の欧米人の恥辱のページ即ち、アルコホル輸入と奴隷狩り出しの歴史を繙かなくてはならぬ。そこへもってきて、文明の空気にまだ触れていない、中央高原奥深く住む喰人族フアンス(フランス人には、之をパフィンスと呼ぶ)が攻め寄せて、オゲオヱ低地を占頷して、旧種族の多くを喰い盡したのである。ラムバレンは、丁度、バフィjンスと旧種族の境界線をつくる所に位してゐる。


    (つづき)