「KAGAWA GALAXY 吉田源治郎・幸の世界」(28)シュバイツァー「原生林の片隅にて」を読む


KAGAWA GALAXY吉田源治郎・幸の世界」(28)


http://k100.yorozubp.com長期連載(150回)補充資料


第5回 吉田源治郎訳 シュバイツァー著『宗教科学より見たる基督教』
(原題『世界の諸宗教と基督教』)「訳者のことば」並びに付録
「シュワイチェルの「原生林の片隅にて」を読む」を掲載します。
本書は、大正14年9月8日、警醒社書店より刊行されました。


    


    


            訳者のことば


 本書の本文「宗教科學より見たる基督数」(英訳標題「基督激と世界の諸宗教」)は、シユッイチェルが、一九二二年英國セリーオーク・カレッヂで講演したもので、米国版は、一九二三年、ニューヨーク市のジョーヂ・エッチ・ドーラン会社から刊行されてゐる。シユワイチェルは、ストラスブルヒ大學の神學、医学、哲学の博士号を有し、且つ一九一三年迄、同大學の教授であった。


 この講演の聴衆は主として、外国傅道に従事するキリスト教宣教師から成ってゐたらしく思はれる。いづれにもせよ私は、比較宗激の立場からキリスト教の本質を闡明した著述として、こんな簡明な、また興味の深い快著が外にあるを知らぬ。原著は僅か九十三ページに過ぎぬ小冊であるが此の中に示されたシユワイチェル一流の痛快な思想分柝は、宗教批判の根抵に徹して、讃む者に、数々の貴い示唆を輿えずに措かない。確に之れは比較宗教思想史の研究に携はる凡ての學徒の一読を要求する文献の一つである。殊に東西の宗教思想の旋渦の衝に位する我が國の思想界が是非共、一顧を與えずに措けない著作の一つである。原著者の所論は、明闇の境に低迷する現代思想界への一つの挑戦状とも見られる。


 シユワイチェルの人となりについては、ミックレム教授の序言、「シユワイチエルとその事業」と、本書の附録について見られたい。両者の間に幾分の重複があるので、止むを得ず前者に多少の添削を施した。之の点について、読者の諒承を乞ふ次第である。


 酋、目次並びに、本文中に施した小見出しは、原著には無いが、その内容の思想の段落を一目瞭然たらしめる為に、私が便宜上附加したものである。


 訳者は、今、中央アフリカの烈日の下に奉仕せるシユワイチェルから、一九二四年の秋、本書の日本訳の許諾を受け、更に、本年四月十四日附、フランシス・グンズバツハに止まれる同夫人へレン・シユワイチエルから、巻頭に掲げた写真と、本書の日本に於ける刊行に関して懇篤なる手紙を受け取った。


 もしも本書の愛讃者の中に、彼を通じて、アフリカの闇黒を幾分にても少なくしやうと志ざされる篤志家があれば、直接ミックレム教授気附、シユワイチェル博上宛献金されたきものである。但し、同氏宛の手紙は、英佛独語に限ります。


 愛する日本の國土からも、敬虔なるイエス使徒、篤學なる聖書者、且、奉仕的なる医師シユツーチエルと悲喜を偕に分つ信仰の戦士が、いつの日にかイエスの恵みによって、輩出せんことを祈らすに居れない。


 附 記


 原著者から訳者宛の佛文の手紙の末端に次の数句がある。『日本訳の場合には、むしろ『世界の講宗教と基督戦』と云ふ標題にしてほしいた考へてゐる。けれども、日本訳の標題は、全く訳者の自由におまかせするから、尤も適常と思ふ名稀を附けて下さい』と。それで訳者は、題して、「宗教科學より見たる基督教」としたわけである。此事は本年二月既に原著者に通じてあることをこゝに断りて置きます。


   一九二五年八月八日


      東京本所キリスト教産業青年会パラックの一偶にて

                           吉 田 源 治 郎