「第2回国連人間居住会議」への日本NGOフォーラムレポート」(1996年6月)


「第2回国連人間居住会議(HABITATⅡ)」


 1996年6月3日−14日 トルコ・イスタンブール


 日本NGOフォーラムレポート準備草稿


          大震災における市街地同和地区


 1995年1月17日のあの大震災以前の神戸市市街地同和地区住民の居住環境は、市内の一部の地域を除いて、おおむね周辺地域との格差は解消され、「同和地区」という行政用語もほとんど死語に近付きつつある状況を迎えていた。


 こうした急速な問題解決の歩みは、長期にわたる献身的な解放運動の成果として1969年に施行された「同和対策事業特別措置法」の成立をバネに、現在まで30年近く継続してきた総合的諸施策の積み重ねの結果であった。


 特に神戸市においては、1971年の綿密な同和地区生活実態調査を踏まえて策定された「神戸市同和対策事業長期計画」をベースにし、すべての同和地域の実情に即して住環境の整備をはじめ福祉・教育・生活等総合的な取り組みが展開され、かつての人権を踏みにじる劣悪な差別的実態の解消の課題は、ほぼ解決のめどがつく段階に到達していた。


 そして近年では、神戸市全体のインナーシティ問題と同和対策事業による画一的な改良住宅の大量建設の問題等が絡み合って生じていた高齢者福祉や医療、就労・教育などの新たな諸課題を、幅広い協同の取り組みで解決すべく、労働者協同組合・教育文化協同組合・住宅まちづくり研究会といった自主的な諸活動が地道に継続され、来春(1997年3月)期限切れをむかえる同和対策関連の特別法終了後を見据えたところの「人権尊重を基調とした新しい地域社会の創造」の模索のただ中で、この度の大震災は生起した。


 もしも今回の大震災が30年前に襲来していたならば、我々の地域はさらに無残な事態を招いていたにちがいない。さいわいこの間の居住環境の整備が集中的に推し進められていたことによって、その被害を比較的少なく食止めることができたのであり、大規模火災による消失も免れることもできたのである。


 それでもしかし、神戸市の市街地同和地区の震災による被害状況を見ると、死亡者は106名(地区人口のO・6%)、全半壊戸数は4.374戸(被害家屋の54・2%)にのぽる甚大な被害を受けた。もちろん、神戸市の市街地には大規模の同和地区ばかり数地区存在するが、その被害の状況はそれぞれ地区ごとに異なっている。とくにそれには、同和対策による居住環境整備の進捗の度合いが大きく作用している。


 例えば、U地区では全半壊戸数は900戸(全世帯の66%)に達したが死亡者は皆無であり、しかもその全半壊戸数の内改良住宅が「使用禁止」(全壊)となった箇所は2棟122戸のみにとどまり大半ば修理可能という状況であった。ところが他方、B地区の場合、全半壊戸数が1400戸(全世帯の58%)で42名(地区人口の0・8%)もの死亡者を出している。この地域は、改良住宅という中高層の鉄筋集合住宅地域と老朽住宅・賃貸アパート密集地域に別れており、震災はこの老朽住宅・賃貸アパート密集地域をことごとく破壊し、死亡者の大半はこれらに集中した。そしてこれら平屋の長屋街区には高齢者が多く居住していたのである。


 全壊となった改良住宅入居者には再建住宅への戻り入居が認められており、その人々には仮設住宅も比較的近隣地域に一定確保されているが、改良住宅の建設区域外となっていた長屋街区で被災された人々の多くは、遠隔地の仮設住宅等に分散しての厳しい生活が強いられてきている。


 したがって、震災後の現在の最大の課題は、特に住み慣れた地域から離れて暮す人々、とりわけ多くの高齢者や障害者の人々が、安心して住み続けられる安全な住いと居住地を、
いかに早急に再建保障できるかにかかっている。


 B地区のまちづくり協議会が、昨年から今年にかけて、地域からやむなく転出された841世帯へのアンケート調査を実施した結果によれば(回収率42%)、3割以上が65才以上の高齢者であり半数以上が無職で年金生活者や生活保護世帯である。こうした世帯の場合、自力での居住確保は困難であり、仮設住宅等からの転出の見通しは全く立たないという実態が浮き彫りになっている。


 現在それぞれ、まちづくり協議会を軸にして熱心な模索が続いているが、遠隔地に分散している人々が互いに連絡を取り合い、今後長期的な取り組みを可能にするためにも、被災者に対する公的な緊急の生活再建支援と元の居住地に戻れるための低家賃の住宅保障が、いかにして現実のものに成し得るのか、このことがいま、我々の共通の願いである。そのことが、どれほど的確にまた共感的に忖度できるのか、それがいま問われているのである。


  1996年5月
          日本キリスト教団番町出合いの家

                      牧師 鳥 飼 慶 陽