岩田健三郎さんの絵本『いのちが震えた』紹介(2)テキスト化:「くらしと協同の研究所」1995年7月号


 岩田健三郎さんの絵本『いのちが震えた』紹介(2)


    テキスト化分


「くらしと協同の研究所」報『協う』1995年7月号



           <今月のひと>




        絵本『いのちが震えた』を発行しました


          鳥飼慶陽氏(兵庫部落問題研究所事務局長)


 阪神人震災のなかて一冊の絵本が生まれた。『いのちがあ震えた』である。表紙に,驚いて目を見開いている猫,えと文は岩田健三郎さん。発行は「小さな出合いの家」となっている。これは日本キリスト教団から教会と位置づけられた神戸市長田区番町の市営住宅11階の鳥飼さんの家、夫婦が牧師で、信徒がいない教会「番町出合いの家」のとこである。鳥飼さんは奥さんと猫と、1月17日、ここにいた。


 「それこそめちゃくちゃ。ミキサーに放り込まれて掻き混ぜられたような振動とものすごい音で高層住宅の棟そのものが揺れた。もうだめかなと何度も思った。よく助かったという感じです。明るくなるまでじっとしていて、その夜は外てみんなで焚き火を囲んでいました。満月でした。なんの情報もなく、ヘリコプターが始終頭の上を飛んていた。高層住宅は箱が残ったので怪我はしても圧死ということはなかったんです。電気も水もなく、11階まで水を運んで暮らしていました。20日目に研究所の物置に避雌しましたが、家を失うというのは強烈な思いがありますね」。


 JR神戸駅周辺は長田区に比べ、きれいなビルが青空に突き立ち、放射状に広がる街路にも傷跡がなかった。だが、一歩裏通りに入るとようやく建って居るようなブルが多く、電車が徹るたびに揺れを感じる2階、それが兵庫部落問題研究所であった。


 岩田さんは10日目に姫路から電車が通っている須磨まできた。そして歩いてまちをみた。そのときに描いた30枚のスケッチと珈琲をもって鳥飼さんを見舞った。岩田さんのこころの深いところが描かれたスケッチをみて、鳥飼さんはいのちがあったことを思い、ぜひ本にしたいと思った。


 絵本はA4変形版。岩田さんのスケッチと版画、味のある手書きの字で10日目のまちが生々しく描写されている。どのページにも猫が描かれている猫は、鳥飼さんが飼っている雄猫のピコ、しばらく行方不明になっていたが生き延びた。


 「ほんとにたくさんの人が、遠くからも歩いてきていただいた。いろんなお見舞いが心にしみています……また、あらこち遠いところへ出かけることが精神衛生上気晴らしになりました。 姫路でのコンサ―トも楽しかったし、2月に和歌山県が2泊3日で白浜温泉へ無料招待してくれたのも嬉しかった」。


 鳥飼さんは兵庫部落問題研究所に21年関わっておられる。行政とも運動団体とも一線を画した研究機関。震災をきっかけに、同和地区という枠組みの中ではない形のまちづくりを始めたい。神戸市に提言を出すべく「神戸住宅まちづくリセンター」を発足させた。


 絵本の申込みは兵庫部落問題研究所へ 〒650 神戸市中央区元町通7丁目2−11