岩田健三郎さんの絵本『いのちが震えた』紹介(2)テキスト化(掲載誌不詳)
岩田健三郎さんの絵本『いのちが震えた』紹介(2)
テキスト化・掲載誌不詳
「絵本の世界」
心が触れ合って 生まれた絵本
大震災から10日目、版画家の岩田さんは神戸の街を歩いた。
「こりゃ、あかん……何もかも、メチャクチャやがな!」そう思いながらも岩田さんはスケッチした。その数40枚あまり。
報道写真にはないアングル。臭いや気持が伝わってくる手書き文字……
ご主人が地震直後に会社に呼び出されたきり戻らないという奥さん、結婚40年目に初めて夫婦で旅行した時の写真があるはずだがと瓦篠のはたにつっ立っている男……。
避難所から初めて浜に来たという子らに岩田さんは顔を描いでやった。
「スケッチした中の一番いいのを取られてしまった気がした。」
その子らに何か言ってやりたいが思いつかず、岩田さんは笠木透の「あなたが夜明けをつげる子どもたち」を歌ってやる。歌いながら、その詩句にハッとする。
見上げてごらんあの山を/山につづく深い空を/あなたの生命より偉大なものは/なにもないんだこの地上には……
このスケッチをお見舞に贈られた被災者・鳥飼夫婦は、家は失ったが生き延びさせていただいた感謝のしるしとして、これを絵本にして友人たちに贈った。それがこの絵本である。
各頁に猫が出てくるのは、鳥飼さんちの猫が生き延びたことを知って、岩田さんが描き添えてくれたもの。暖い心の触れ合いが生み出した絵本だ。(s)
「いのちが震えた」えと文/岩田健三郎
発行元/小さな出合いの家078・351 ・5265 発行人/鳥飼慶陽・トモ子