『賀川豊彦と現代』紹介批評テキスト化分(15)緒方彰「クリスチャン・ジャーナル」昭和63年8月


賀川豊彦と現代』紹介批評紙誌(15)


「クリスチャン・ジャーナル」(昭和63年8月)


      テキスト化分


             賀川豊彦と現代」書評


                 緒方彰


 この度畏友、鳥飼慶陽氏が「賀川豊彦と現代」を出版された。予て、賀川豊彦と部落問題との係わりについて、明らかにしたいと言っておられた同氏はここ数年来、ことあるごとに発言されていたが、それを一冊に纏められたことは誠に意義あることである。鳥飼氏は昭和41年から2年間、神戸イエス団教会の伝道師として、熱心に宣教の業に従事され、その間公私にわたるご交誼を頂いた。


 その後、感ずるところがあって、解放運動へ挺身されるところとなり、現在に至っておられる。


 本書の中で、所謂、キリスト教会で現在も問われている、「賀川問題」といわれている、賀川全集中にある、「貧民心理の研究」所収にある、賀川の部落問題の認識について、本書はその問題の解決の方法として、ひとの「考え方」(認識)と「生き方」(実践)を混同させてはならないこと。また、人の一生には「考え方」の上でも「生き方」の上でも、深化、発展、もしくは退化、衰微があるので、それらを固定的に見ることはできないし、見てはならない。その意味でも、常に歴史的な見方が必要となるとの論説を述べておられるが、蓋し名言であると思われる。


 本書が多くの関係者に読まれて、現代の停滞するこれらの問題を解決する一助になることを念願するものである。


           (神戸イエス団教会役員、イエス友会神戸支部長)