『賀川豊彦と現代』紹介批評テキスト化分(13)前田武「解放の道」1988年


賀川豊彦と現代』紹介批評紙誌(13)


  前田 武「解放の道」(1988年)

 
     テキスト化分





        宗教界の部落問題タブーを破った


         「賀川豊彦と現代」を読んで

 
                   前田 武(兵庫県連書記長)


 兵庫部落問題研究所の事務局長である鳥飼慶陽さんの著書「賀川豊彦と現代」は、今ベストセラーとなって各方面に大きな反響が巻き起こっています。


 戦後生まれの私などは賀川が明治以降できた「葺合新川」のスラムでの活動をもとに書いたといわれる超ベストセラー「死線を越えて」も読んではいません。ただ、神戸の生田川の歴史を知るうえで賀川は忘れてはならない人物だとは知ってはいました。


 この本の内容については、この間、各紙の新聞が取り上げ紹介しましたし、最近では、NHK教育テレビに鳥飼さん自身が出演されていますのでご存じのことと思いますので多くは触れませんが、賀川は『貧民心理之研究』の第一編第七章「日本に於ける貧民及貧民部落」で(部落民は異民族だ)との立場をとっています。


 このため、一連の宗教界にたいする「解同」の暴力的な「確認・糾弾」によって、日本キスト教団のなかにも「部落解放センター」がつくられ賀川を差別者ときめつける潮流があり、すでに賀川豊彦全集のなかからこの部分を削り取られているとのこと。鳥飼さんは、賀川と言う人物を知るうえからも、また、部落問題を歴史的、科学的に見るうえからも許されないとして今回の出版に及びました。


 部落差別は長年、民族や宗教等の違いから生まれたものであるなどといわれてきました。今日、部落問題についての科学的な研究がすすめられ、政策的につくられた差別であると今では常識となっていますが、このように正確に部落問題が位置付けられるようになってそう年数がたっていません。


 まして、賀川がこの「人種起源説」で論文を書いたのは、約七十年前のことであります。賀川が自ら進んで生田川の貧民スラムで献身的な活動をはじめただけでなく水平社運動にもかかわって活動して来たことが、今日もっと評価すべきでしょう。


 私か、この本を読んでまず感じたことは、賀川の生きかたとその行動が時代の違いがあるものの鳥飼さんご夫妻の生き方と酷似していること。そう感じたのは私だけではないと思います。


 私は当時クリスチヤンの友人だった人から、自ら部落に住み部落解放運動に加わって、ゴムエ場で工員として働いておられる牧師さんを知っていますかとたずねられ、そのときはじめて、その世界で鳥飼さんが名の通った牧師さんであることを知った次第であります。


 このように生きてこられた鳥飼さんだけに、パンチがきいているのかも知れません。


 今、私の手元から「賀川豊彦と現代」は四十五部がでていきました。部落問題を学習する上からもまたキリスト教会をはじめ宗教界で起きている「解同」タブーを知る上からも、多くの人に是非読で頂きたいと思っています。