「賀川豊彦の贈りものーいのち輝いて」(第21回)(未テキスト化分)


賀川豊彦の贈りものーいのち輝いて


 第21回・見テキスト化分


     第五章 いのち輝いてー神戸からの報告


              結びにかえて


       「どんなときにも人生には意味がある」


 予定の時間が迫ってしまいました。残念ながら、資料の説明だけになります。


 ひとつの資料は、1997(平成9)年9月18日付け神戸新聞に載った「追悼記事」です。


 諸冨祥彦先生が、アウシュビッツで奇跡的に生還した精神科医ヴィクトール・フランクルを偲んだもので「どんな時にも人生には意味がある」と題されています。


 20世紀を代表する知的巨人のひとりであるフランクルの読者は、日本でも少なくありませんが、彼の代表作『夜と霧』は古くからのロングセラーです。このまえ池田香代子さんの新訳 も出て、若い人にもよく読まれているようです。


 「人間は、未来を信じることができなくなれば、生きていけない存在である」
と語り続け、彼独自の「ロゴセラピー」という心理療法創始者として有名ですが、日本でも彼の著作は『著作集』のほかにも、いま新しい翻訳作品が登場して、わたしたちの心の糧になっています。


           鈴木大拙の残したもの


 もうひとつの資料は、東洋と西洋をつなぐ大きな仕事を残し、96歳の生涯を終えた鈴木大拙先生の書と写真です。


 そのなかに現代日本を代表する哲学者・上田閑照先生の「鈴木大拙の残したもの」という短いコメント を添えています。


 鈴木大拙先生は、学生のころに一度だけ、京都でお話を聞く機会がありました。そのとき以来、先生の著作は大切な宝物になっていて、わたしは勝手に「恩師のひとり」と決めています。


 時間の関係で、フランクルの思想や鈴木大拙の魅力について、まったく立ち入ることはできませんが、ご参加の先生方には、とくにこの二人の先達の書き残された作品を、どれか一冊でも、残り少ない夏休みの読書案内ということにさせていただきます!


 教育に関わるわたしたち自身が、「真理・真実」に養われて、学び続けるよろこびを大切にして、歩みたいと思います。


         「涙と笑いのハッピークラス」


 最後に、現在金沢市の小学校で教師をしておられる金森俊朗先生の教育実践にふれて、終わりにいたします。


 金森先生は、震災の前から、フォークソングの遊び友達として知り合いになり、震災のときにも、神戸に来てくださいましたが、じつは金森先生のクラスを取り上げたNHKスペシャル「涙と笑いのハッピークラス:四年一組いのちの授業」が、なんと「第30回日本賞グランプリ」を受賞してしまいました。


 この作品はさらに、「バンフ国際テレビ祭グランプリ」にも輝き、日本国内だけでなく、世界的に大変な反響を生んでいることは、皆さまご存知でしょう。


 金森先生の「いのちの授業」の豊かな教育実践は、早くから注目されて『太陽の学校』『性の授業・死の授業」(いずれも教育史料出版会)などでも、広く読まれていましたが、こんどのグランプリの受賞で、最新作の『いのちの教科書』と『希望の教室』(いずれも角川書店)が、どこの書店でも山積みされています。


 子どもたちの「いじめ」や「自殺」などの今日的な困難な課題にも、適切なヒントを与えていることもあって、昨年(2004年)9月のNHKスペシャル「21世紀日本の課題・子どもが見えない」と、今年5月の続編「子どもの心をノックする」の長時間特別番組にもゲストとして登場して、作家の重松清さんやヤンキー先生で知られる義家弘介さんとともに、大切な役割を果たしておられました。


 本日のお話の冒頭でふれましたように、人権教育は「いのちの輝きを享有(エンジョイメント・受用)する教育的営みである」ということが、わたしにハッキリ見えてまいりましたのは、この金森先生の地道な教育実践を学んでからのことでした。


 「涙と笑いのハッピークラス」ができていくまでには、先生のこれまでの多くの失敗や反省を、いっぽいっぽくぐりぬけてこられた「涙と笑い」がいっぱい隠されていることは、あらためて申し上げるまでもありません。


 わたしたちが人権問題を学び、人権教育に取り組むのは、単に「差別問題」を学ぶことにあるのではありません。


 すべての児童・生徒と共に「いのち輝いて生きることのできる「確かな希望」と「ほんとうの夢」を共有するための、わたしたちの日々の悪戦苦闘と試行錯誤こそが、いちばんのお宝だと思います。


              いのち輝いて


 大人であるわたしたちが「いのちの輝き」を失い、「確かな希望」も「ほんとうの夢」も見失い、失っていることさえ忘れて、ゆとりのない日常に追われてしまいがちです。


 それでもしかし、「いま・ここ」に、わたしたちみんなの「確かな希望」と「ほんとうの夢」があることを見出すことが大事です。いつも新しく「いのち輝いて」歩みはじめることができるのだ、ということです。


 何事も複雑になり、難しい課題がつぎつぎと押し寄せるかな、それでも伸びやかに、そして軽やかに、「いのち輝く教育的営み」に、お互いに力を合わせてまいりたく存じます。これは、困難であればあるほど、チャレンジのしがいがあるというものです。


 まとまりのない話しをいたしました。長時間にわたり御清聴有難うございました。


 「涙と笑いのハッピークラス」が放映されたNHKスペシャル「こども・輝けいのち」でうたわれた井上陽水さんの美しい「うた」と映像を、ビデオで御覧頂きながら、終わりにいたします。

          (2005年8月19日・人権教育研究京丹後市大会)


             注


池田香代子訳も初訳で愛読されつづける霜山徳爾訳『夜と霧』と書名は同じであるが、新鮮な「新訳・新編集」となっている。

  上田閑照氏による鈴木大拙に関する著作は多いが、岡村美穂子氏との共著で『鈴木大拙とは誰か』(岩波現代文庫)『大拙の風景』『思い出の小箱から』(以上燈影舎)などが読みやすくて面白い。その前にもちろん、大拙自身の著作にふれるのがいい。手ごろなものでは文庫で『新編・東洋的な見方』(岩波文庫)『禅とは何か』(角川文庫ソフィア)『禅学入門』(講談社学術文庫)ほか『真宗入門』(春秋社、佐藤平訳)など。


NHKスペシャル「二一世紀日本の課題・子どもが見えない」「子どもの心をノックする」の全記録は、『子どもが見えない』(ポプラ社、2005年)として書籍化されて広く読まれた。