「神戸保育専門学院卒業式祝辞」(2006年3月)


宮崎潤二さんの作品「昔ながらの路上散髪屋さん:北京故宮外濠のほとりにて」



 神戸保育専門学院卒業式祝辞


         2006年3月10日


 皆さんの晴れ姿、とても輝いています。そして、祝福のうちに26名全員揃って、卒業証書を受け取りになり、目出度くこの学院から飛び立たれること、心からお祝い申し上げます。


 多くの来賓の先生方を代表しての挨拶をご指名いただきました。こういう役柄はわたしには全く似合いませんが、今回は喜んでお受けいたしました。真に光栄な事でございます。


 先日の『学院35周年の感謝の集い」では、皆さんはステージに立って、沢山の聴衆の前で、美しい混声合唱「明るい星が」を、お歌いになった。本当に素晴らしく、胸を熱く致しました。大好きなモーツアルトもよかったし、シュトラウスの「美しき青きドナウ」もよかった。秋山先生の、澄み切ったソプラノも良かった! しかし何よりも、皆さんの混声合唱「明るい星が」が、一番良かった!


 わたしにも、皆さんと同じ「青春時代」がありました。昔々、50年近くも前です。高校を卒業し、牧師になるために山陰・鳥取の山奥から、京都の同志社神学部で、学生生活を送りました。アルバイトに追われ、学生生活は楽しいことばかりではありませんでしたが、「学生生活」の思い出は一杯です。


 学生時代に生涯の伴侶に出会い、卒業式の前に結婚式をいたしました。丁度、卒業のとき神学部の新しい校舎とチャペルが完成して、そのチャペルで結婚式をして貰いました。一〇数名の小さなクラスでしたが、クラスメイトに会費制の祝いの宴を開いてもらいました。会場はともに学んだ「教室」でした。会費が少し余ったといって、新婚旅行の旅費までプレゼントをしてもらい、淡路島に新婚旅行をいたしました。その後、卒業式でした! 生涯、忘れることの出来ない学生生活でした。


 皆さんもこの2年間、この「美しい森の中の学び舎」で、ともに過ごした学院での日々は、生涯忘れることの出来ない貴重な経験を積み重ねてこられました。
この前の「最後の試験」、あそこで書いていただいたひとりひとりの文章は、2年間の学びの結晶が刻まれていました。心打つ素晴らしいものばかりでした。
私の講義は真に恥ずかしい貧しいものでしたが、皆さんが立派に「考えて書く力」をつけ、「遠いまなざし」をもって足元の困難に挑戦してこられた「今の思い」が記されていました。私の大切な宝物でございます。
こうして卒業のときを迎えられたこと、改めてお祝いをもうしあげたいとおもいます。


 トリノオリンピックで、日本で唯一のゴールド・メダリストとなった荒川静香さんのことは、連日のように新聞やテレビで取り上げられています。彼女は今二四歳。ニックネームは「しーちゃん」。
 荒川さんがあの演技を終えた後、次の言葉を色紙に書きました。

          「楽しく 華やかに 輝く」


 彼女は飛びぬけた天才に恵まれている方だと思います。そしてここにいたるまでには、いくつもの厚い壁と挫折と苦悩を乗り越えて24歳を迎えている方でもあります。その中で彼女が日々大切にしてきた言葉が「楽しく 華やかに 輝く」という言葉でした。とても強い感銘を受けました。


 ひとりひとり大切にしている言葉はあると思います。私の学生の頃からの大切な言葉は「いつも喜んで生きる」ということでした。その秘密を、日々新たに受け取り直して、一歩一歩生きてゆくということでした。
馬齢を重ねたわたしが言うのもへんですが、わたしたちも皆さんと一緒に、これから益々「喜んで」「楽しく 華やかに 輝きたい」と願っています。


 最後に、皆さんもよくご存知の「まど・みちお」さんの詩を、ひとつ読ませてください。


 まどさんは、今97歳です。児童文学のノーベル賞といわれる「国際アンデルセン賞」を、日本でただ一人受賞した方で、誰でも知っている「ぞうさん ぞうさん」や「一年生になったら・・」「やぎさん ゆうびん」などの作者ですね。
まどさんの一番新しい作品で、「いわずにおれない」(集英社文庫)から、特に気の入った作品の一つです。


 「トンチンカン夫婦」という題がついています。


    満91歳のボケじじいの私と
    満84歳のボケばばあの女房とはこの頃
    毎日競争でトントインカンをやり合っている
    私が片足に2枚重ねてはいたまま
    もう片足の靴下が見つからないと騒ぐと
    彼女は米も入れてない炊飯器に
    スイッチ入れてごはんですようと私を呼ぶ
    おかげでさくばくたる老夫婦の暮らしに(さくばくに傍点)
    笑いはたえずこれぞ天の恵みと
    図にのって二人ははしゃぎ
    明日はまたどんな珍しいトンチンカンを
    お恵みいただけるかと胸ふくらませている
    厚かましくも天まで仰ぎ見て・・


 私は、まど・みちおさんの、お人柄とこのやさしい言葉が、大好きです。


 「長い人生の途上」にあって、このときは、祝福された新しい旅立ちのときです。
 皆さん、本当におめでとうございます。
 御参席の御家族の皆様、おめでとうございます。
 そして先生方、職員の方々、有難うございました。