「兵庫部落問題研究所創立20周年を前に」(1993年4月、『月刊解放の道』)


宮崎潤二さんの作品「晩秋の頃:神戸市北区僧尾」



  『月刊・解放の道』1993年4月号


   「巻頭随想」


 社)兵庫部落問題研究所創立20周年を前に


 三月五日から七日まで、地元神戸で、全解連の第二二回定期大会が開かれた。 久し振りに代議員のひとりとして、三日間とおして参加し貴重な経験をさせていただいた。直接部落解放運動と関わり始めてはや四半世紀が経過したが、この三日間の経験は、なぜか新鮮な「新しさ」を覚えさせられた。それぞれの地域で独自な課題に向かって苦労を分かち合い、地道に運動を継続しておられる様子を、たっぷりまとめて見聞することができ た。「がんばる全解連」の息吹を感じさせた三日間であった。


 ところで、全解連は正常化連の結成から数えても二三年の時を刻んでいるが、私たちの兵庫部落問題研究所も、あの「八鹿高校事件」が引き起こされた同じ年(一九七四年)に「神戸部落問題研究所」として誕生して以来、ことしで二〇年の節目を迎えることになる。まさにこの間、研究所は全解連とともに同時代を生きてきたことになる。


 この激動の歳月、全国の幅広い方々の支援を受け。地域に密着した調査研究と啓発活動に微力を注ぐことができた。設立の頃を振り返れば、あの難しい状況の中で部落問題解決の方向性を確かなものにするために、どうしても身近な研究機関の必要性を提起したのは、当時の神戸の解放運動(現在の全解連神戸市協)であった。そして、その願いに応え自ら先頭に立って設立の任を引き受けられたのは、神戸大学の杉之原寿一先生を中心とした意欲的な研究者の方々であった。


 そして、神戸における解放運動が、暴力と利権を同伴させた独り善がりな「運動」と毅然と訣別して運動の団結を守り、地域内の自治団体との協力関係をも大切にして、革新市政を支える積極的な役割を担うことができたことも、研究所設立の力となった。


 このように、運動関係者をはじめ地元団体、行政関係者などの支援を得て成り立っているが、当初より自立的な「研究機関」をめざし、運動や行政への大胆かつ自由な、聞かれた表現活動を積み重ねることを使命としてきた。


 実際、これまで同和行政のあり方をめぐっても、科学的な実態調査に裏打ちされた積極的な提起が、その都度展開され、同和教育の分野においても、常に基本に立ち返った吟味をとおして、大いに刺激的な論争を促してきた。その結果、兵庫の部落研も一定の評価を得て「成人」の歳を迎えさせていただくことができたように思う。


 ただ、民間の研究機関の維持・継続は非常に困難な状況にあることには変りはない。古い歴史をもつ京都の部落問題研究所は、文字どおり自主的・民主的研究機関として多くの困難を乗り越えてこられた大先輩である。


 もちろん困難さは、今日の解放運動も同じである。これをどう切り抜け、課せられた期待に応えつづけるか、知恵と力を出しあいながら、今年の夏に予定している創立二〇周年の記念のつどい(『月刊部落問題』二〇〇号記念と併せて)の準備を、いま始めようとしているところである。





   付録:「兵庫民報」(1993年8月22日付)


   時代の先見通す研究活動


     兵庫部落研が設立20周年


 社団法人・兵庫部落問題研究所(杉之原寿一理事長)が設立二十周年を迎えました。
 同研究所は、八鹿・朝来暴力事件が起こる半年前の一九七四年四月に誕生。「朝田理論」に代表される部落解放同盟のおしすすめる極端な暴力排外主義にたいして、部落問題の解決をさししめした理論「国民融合論」を深めてゆく自主的・民主的・科学的研究機関です。七九年には県から社団法人の認可を受けました。
 現在、賛助会員を含め、会員は約六百人。常務理事などで構成する運営委員会と企画編集会議が毎月ひらかれ、ほかに研究部会、特別部会などの機関がおかれています。日常業務を処理する事務局体制は、鳥飼慶陽事務局長ら三人。
 この間、人権・差別をテーマにした研修講座やシンポジウム開催など、一貫して「新鮮かつ自由な視点で、当面している課題を的確にとりあげている」と各方面から高い評価を受けています。とくに、常に時代の先を見通した出版活動は、各方面から大きな反響を呼んでいます。最近では「『部落史』を問う」(立命館大学助教授・畑中敏之著)、「現代アメリカ合衆国論」(神戸市外国語大学教授・大塚秀之著)などを送りだしています。
 また県下の状況を、詳細に分析報道している「月刊部落問題」は、この八月で二百一号を数え、部落問題の研究文献「市民学習シリーズ」は二十一号まで出版されています。
 そして九〇年から刊行している「ヒューマンブックレット」は、環境、福祉、教育などあらゆるテーマを、多彩な執筆者で出版。現在二十冊を数え、全国的にも好評です。
 杉之原理事長は「もう二十年になるのかという思い。『解同』の部落排外主義路線が続く限りたたかってゆく」と語っています。
 同研究所では、二十周年を記念して二十八日(土)、神戸市中央区のホテル・シェレナで記念祝賀会をひらきます。