「心打つ静かな熱気」(「ふくしま文庫」一周年記念誌、1986年)


宮崎潤二さんの作品「小説『ドブ板のうた』への挿絵」


広島市福島町につくられた子ども文庫「ふくしま文庫」が開設されて一周年記念に寄せた小文が出てきました。神戸のまちづくりの早い段階で、視察にも出掛けた場所でもありますが、研究所の仕事でも、福島の皆さんとは大変お世話になりました。

本文を掲載する前に、画家の金崎さんからいただいた作品をふたつ、ここに収めさせていただきます。




「ふくしま文庫」は、地道な取り組みが実って、早くから社団法人の認可を得て、よいお働きを積み重ねてきておられます。


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    「ふくしま文庫」一周年記念誌(1986年10月)


            心打つ静かな熱気


                          鳥 飼 慶 陽



 「ふくしま文庫」創立一周年おめでとうございます。いつも何かとお世話になるばかりで、お祝詞の前にまず、日ごろの御礼を申し上げねばなりません。


 はじめて「文庫」の誕生を耳にしましたときは、さすが福島、生まれるべくして芽吹いてきたものだ思いましたが、実際にこの春「文庫」をお訪ねする機会に恵まれ、関係者のみなさんのお働きぶりに接して、並々ならぬ“静かな熱気″に、あらためて心打たれました。
 

 御地での幅広い取り組みについては、時折視察研修にでかける機会もあり、最近でも「住戸改善」「特別養護老人ホーム」の先進地として交流もおこなわれ、研究所では昨年『いのちあるかぎり−原爆と未解放部落』の刊行のために、格別のご協力をいただきました。そして現在もまだ仮題ですが『子どもと地域と学校と』の本づくりや出版物の普及、「月刊誌」の拡大まで力を入れていただいております。
 

 少し個人的なことになりますが、十年ばかり前、今の仕事につきましたとき、最初にお訪ねした方が、山口県光市の丸岡忠雄さんでした。
 部落研活動のなかでも独自の個性(面白さ)を発揮されていて、目を見張らせるものがありました。惜しむべくは昨年、忽然とおなくなりになり『続・ふるさと』が丸岡さんの遺稿詩集になってしまいましたけれども、身近に覚える先達のおひとりです。


 またもひとつ、私達の歩みの上で大切な先達として学んできましたことに、和歌山県吉備町の、新しい町づくりと住民の自立をめざす「ドーン計画」の取り組みがあります。研究所でこれまで毎年、視察研修に出掛けて、そのつど新鮮な感動を参加者にのこしてきました。


 こうした、人々の心を動かす先駆的な試みは、全国各地で、あまり目立つこともなく、多くの方々の手によって担われ、積み重ねられているにちがいありません。


 そうしたなかで、「ふくしま文庫」はいま、創立一周年をむかえられ、私達の新しい先達として、すでに大きな足跡を残してこられました。
 そしてさらに次々と、新たな発想と創意に工夫が加わり、天野先生のお志しのように“民主主義と平和・文化の殿堂、「人間の尊厳」の楽園を打ち立てるため”の共同のいとなみが、ひとつひとつ実現してゆこうとしています。
 

 この地道な“静かな熱気”に促され、支えられた「ふくしま文庫」の活動は、地域の子どもや父母の方々によろこばれるだけでなく、その波及効果は、おそらく地域内外で予想をはるかに越えたものになるにちがいありません。


 いずれ近いうちに、「ふくしま文庫」の“静かな熱気”を、全国の心ある人々にお伝えするための本づくりも、ご一緒にさせていただければうれしい、とひそかに願っております。


 はじめにハッキリした「志し」のある活動は、おのずと人も得られ、実現してゆく、と申します。「ふくしま文空の、ますますのご発展を、心よりお祈り申しあげます。
                     (兵庫部落問題研究所事務局長)