「神戸の部落解放運動ー同和問題は何処まで解決されたか」(第4回・最終回)(1993年、神戸市立平野中学校)


分割掲載になり、きれぎれですが、今回の4回目で終わりになります。早速、UPいたします。



           神戸の部落解放運動(第4回・最終回)


           1993年 神戸市立平野中学校



        3 神戸の解放運動の今後の課題

 
 以上のような到達段階を踏まえて、現在どのような課題をになって取り組みが行なわれているのかを見ておきたいと思います。
 

 現在各地域においては、かつての同和対策はほぼ終ってきましたから、端的に言って、同和という枠組からはなれた、広い意味での「まちづくり」「地域づくり」の課題に向かっているといえます。
 

 これまでは、同和対策として地域を指定して、囲い込んだ地域づくりがすすめられてきました。ほかの自治体では、同和対策を「属地属人」ですすめて、古い身分を閉じ込めるような方法を取りましたが、神戸では対象地域に住んでいれば基本的の同和対策の対象にする、いわゆる「属地主義」で進められました。したがって神戸の場合、外国籍であっても住宅などの保障が確保されてきました。


 しかし、神戸のように進んだところでも、あくまでもそれは「同和対策」という特別措置のもとでの指定地域を設定してのまちづくりでしたから、本来の地域社会、コミュニティーづくりという視点は不十分でした。今、同和対策が終了していく時点で、それが新たに目指されてきています。この「まちづくり」の課題は、決して終りのない課題です。


 一般的に高齢化社会が進んできましたが、同和対策の進行がそれに拍車を掛けた結果を生んで、都市と農村を問わず、高齢化が急速に進んできました。したがって、これまでの部落差別に伴う問題という枠組ではとらえられない問題が、それぞれの地域に生れています。


 これまで地域のなかから、比較的安定した世帯から転出して、それも若年層の転出が目立っています。しかも、「条件さえあれば地区外に出たい」希望をもって居る世帯は全市的の25%にも上っています。また、母子・父子世帯がこの10年間で倍以上に増加し、高齢化が進むなかで、60才以上の人々の「病気がち」「通院中」「入院中」のひとが5割を越えています。ですから厳しくみますと、地域における「まちづくり」にとって大きな壁になってきます。


 若者、中堅層が生き生きしていない町は決して健康な町ではありません。自治的な力を作って行くことが難しくなってきています。また、市街地では、世帯分離もあって生活保護世帯や経済的不安定層が比較的高くなっています。こうした状況は、教育にも影響を与えて、例えば母子・父子家庭の増加に伴う問題は、同和問題というよりも個別的な共通の問題状況として見なければなりません。


 これを今後どのように解決していくのか。残された同和問題を本当に解決していくためには、これまでの「同和」という枠組ではない一般的な取り組みで解決して行かなければならない、というのが神戸市の方向性でありますし、国の基本方向でもあります。おそらくこれは、逆戻りはないでしょう。


 実際、神戸市内の同和地域の住民の意向を見ましても、そのことははっきりと表わされています。特に私は注目しますのは、調査の最後に「自由記入」の欄があります。何でも意見を書いていただくのですが、以前は記入が少なく「落書」のようなものが目立ちましたが、最近のものは、本当にはっきりと注目すべき意見が丁寧に書かれています。今度の調査では特にそうです。


 例えば、神戸市内の同和地区の市街地の意見としては、900人余り(12%強)の方が記入されています。(農村部でも170人程で14%強)


 意見の内容は多岐にわたりますが、
  1 「住宅問題や駐車場の整備など生活環境の整備」215
  2 「同和対策への甘えや被害者意識をなくすなど住民の自立の必要」169
  3 「同和問題に騒ぎすぎ、そっとしておくべき」83 
 4 「同和対策をやめ同和地区という枠をなくして全体を改善せよ」72
 5 「不法駐車を取り締まれ」65
  (「何か新しい法律を」5!  どうしてか農村部で15)
 農村部では
 1 「特別対策をやめ同和地区という枠をなくして全体を改善せよ」28
 2 「同和対策への甘えや被害者意識をなくすなど住民の自立の必要」23
 3 「生活環境の整備」22
 4 「人権意識の高揚」20
 5 「同和問題に騒ぎすぎ、そっとしておくべき」19 


 神戸市民の意向や住民の意向を見ましても、
 例えば「特別対策」のあり方に対する意見では、「今後は同和地区だけの特別対策としてではなく、可能な限り一般対策を充実するなかで必要な事業や施策を実施していくべきである」という人が最も多く46・4%。「これ以上特別対策を行なう必要はない」の18・1%を含めると3分の2近くの人々が特別対策の継続実施に否定的な意見をもっています。


 また、参考までに「学校同和教育のあり方について」見ますと、「特別に同和教育というより、日常の教育活動を通じて人権尊重の大切さを教える」が最も多く39・3%、「大人のほうに問題があるので、学校教育より社会教育が大切」22・9%、「同和問題を人権学習として、さまざまな他の人権問題を含めて幅広く教える」22・3%、そして「同和問題を人権学習として、学年に応じて差別の歴史や実態を教える」4・4%。


 こうした現状を踏まえて、神戸における部落解放運動―部落問題解決の取り組みは、今後どのように進むのか。運動団体や指導的な位置にある人々の意識よりも、住民のそれぞれの意見が、実際は先を進んでいる面があるようにも見受けられます。


 前に申しましたように、基本的な方向性は、国も、兵庫県も、そして神戸市も、同和対策を早期に終結させて、これからは一般対策のなかで残された問題を解決していくということでは一致した考えで進んでいます。そして、学校教育にしても、社会教育にしても、教育活動のなかで、人権教育のなかに位置付けてすすめる方向は出されています。


 したがって、地域のなかで取り組まれている現在の課題は、かつての「同和」の枠からどう自立して、自主的な力を育て、「まちづくり」をすすめるのかが一番の関心事です。
 その意味では、本当に「総仕上げ」の重要な時です。


 そこで最後に少し、近年の取り組みのいくつかを紹介しておきます。
 先程も触れましたように、これまでは同和対策として、専ら部落差別の傷跡をなくしていく取り組みがなされて、それなりに生活上の格差は解消されてきました。しかし、高齢化の問題をはじめ、新たな課題が、それぞれに地域に生れてきています。


 それで例えば、住宅・まちづくりの課題をみましても、市街地では、改良住宅の指定地域は改善されましたがそれ以外のところは老朽化が進んでいますし、早期に立てられた住宅は早急に改善が必要になっています。また周辺地域とのバランスなど、今後長期間にわたって一般対策で解決していかなければなりません。


 すでに、神戸市では「住戸改善」については一般対策として15年から20年計画で、これまで建設された改良住宅の改善計画を打ち出して具体化に掛かっています。これはもちろん同和対策ではありません。


 ですから、地域のなかでも、これまでは同和対策を進めるための地域組織が作られてきましたが、今は新たな推進母体として「まちづくり協議会」のようなものが検討され始めて、いくつかのところでは実際に動き始めています。


 もう7年ほどまえから、専門家も入って「住宅・まちづくり研究会」というものをつくって、各地域のまちづくりウオッチングをしたりして、福祉や教育、就労の問題など、幅広い議論を積み重ねてきていますが、そんなかからもう6年目になりますが、中高年の就労と在宅福祉をすすめる運動として、新しい協同組合組織が誕生して、これまで解放運動の中心になって活躍していた人たちが、その分野の責任をになって、地域内外の組織として発展させています。


 私はこれにも深く関わりを持たせていただいていますが、公園管理、ビル管理、遺跡発掘、ヘルパー、リサイクルなど幅広い活動が前進しています。最近では高齢者生活協同組合づくりを構想してすすめられています。(私たちの地域からはじまった「市街地に特別養護老人ホームをつくる運動」も、昨年長田区に実現したことは御存じのとおりです)


 さらに神戸では、これまでの特別対策としての「地区教育事業」をなくしていく過程で、住民自身がお金を出しあって設立し、市民の力で運営管理する「教育文化協同組合」といわれる取り組みが、これも5年前に作られて専任の先生もついて本格的に進められようとしています。


 まだ小さな試みですが、これまでのどちらかというと、同和対策に依存的になりがちなものを、共同の力で乗り越えていく試みとして、全国的にも注目をされ、視察なども此の頃増えてきています。


 こうした、新たな課題に即した住民運動のかたちは、多様な形を取りますが、市街地を中心とした取り組みは、現在「地域福祉活動」に力点が注がれているように見受けられます。
 

    む す び


 やはり時代とともに、解放運動の課題は変化してきます。常に、新たな課題に挑戦して、新しい状況を切り開いていくのが大事なことです。


 先生方の教育の分野でも、20数年前の課題は、当然生徒児童が、貧困と差別の困難に立ち向かい、逃げないで生きていく力を身に着けることが、大きな課題でした。そのために、先生方も私たちと一緒になって、色んな教育行政の充実にも奮闘されてきました。


 しかし今日では、同和問題は基本的に解消されてきつつある状況を踏まえて、児童生徒に対しては、はっきりした解決の見通しのもとに、確かな希望を示していくつとめが、先生方には担わされているように思います。


 私自身この激動の期間を、この問題の解決のためにともに歩みことができて大変幸せに思います。かつての困難な時も、充実した時でしたが、こうして問題がほぼ見通しがつき、大きな節目を迎え、新たな取り組みが進められているなかで、今新しい意欲のようなものを感じさせられています。それは、単に個人的なことではなく、地域のなかの多くの人々が、ひしひしと感じておられることのよう思います。


 まだまだ、いやますます新たな問題が山積されていますが、こうした課題にともに担えることは、よろこばしいことです。
 何事も、よろこんで関わらなければ面白くありませんし、長続きもいたしません。


 以上、とりとめのないお話を致しましたが、何かの参考にしていただければうれしく思います。長時間ありがとうございました。