「部落解放とは何か」(第4回)(1986年、第5回広島県部落問題研究集会)


宮崎潤二さんの作品「マオリの民族舞踊:ロトルア市にて」



          部落解放とは何か(第4回)


          1986年10月26日
      
 
         第5回広島県部落問題研究集会



   三 部落解放のこれからの課題―住民の自立と家庭・地域づくり


 部落問題の解決として「住民の自立と融合」が大きなテーマになり、それを促進するための行政・運動・教育、それぞれの在り方と役割について、熱心に論じ合われるようになりました。

 
 また他方では、解放運動の歪みを反映した側面が際立って強い「宗教界」や「企業」の取り組みともかかわって、その在り方と役割についてもいま、真剣に検討が加えられています。
 

 ここでは少し「住民の自立と融合」という課題について、住民自身のこととして考えてみることにします。


 先に「国民融合の基盤」についてふれました。そしてそれを私は、「人としてのいのちの基(もとい)」とも呼んでみました。


 私たちの生活には、いろいろの側面がありますが、どの人の場合にも、この「いのちの基(もとい)」をふまえて、「個人として」、「家庭の一員として」、また「地域社会の一員として」、固有の位置と役割をもって生きるべく責任をおわされています。


 部落解放の課題との関連でみる場合にも、この三つをそれぞれ混同させないで、健やかに豊かに育て伸ばしていくことが求められているのではないでしょうか。


         (1)個人の自立


 部落解放の中心的課題のひとつが「住民の自立」(個人の自立)を促す取り組みにあることについては、良識ある人々の今日の共通認識になりつつありますが、私たち自らのこととしても、「部落解放とは何か」を自らのこととして、しっかりつかみ、学び、働き、「個人の自立」をめぎしているわけです。


 生さる力、働く意欲、ものの感じ方・考え方を、私たち自身がどう発揮していくのかが、共通の課題であり続けます。


 個人の問題は、たとえ親・兄弟でも成り代わることのできない「ひとりの世界」があります。子どもは子どもとして、大人は大人として、老人は老人としての「ひとりの世界」があります。この「独り立ち」の課題は、最も基本的な事柄です.


          (2)家庭づくり


 「個」の鍵やかな自立とともに、独立した男女の「婚姻」による「新しい家庭」がつくられていきますが、この「家庭」(夫と妻、親と子、兄弟姉妹…)というものもまた独自の目的と根拠をもつて成り立っています。


 以前に『私たちの結婚−部落差別を乗り越えて』という本を<市民学習シリーズ>の一冊としてつくりました。そのときにも痛感しましたが、本当に幸せな、いい家庭を築くことそのことが、部落解放の大切な仕事だと思います。


 八月未の兵庫県下のブロック研究集会では、須長茂夫氏を迎えて「自立のための子育て」という記念講演があり、大好評でした。


 「家庭づくり」の課題も、他の人には成りかわることはできません。その「家庭」独自の個性が、おのずと形を成してきます。「家庭づくり」も、私たちの共通の仕事です。


         (3)地域(社会)づくり    
 

 個人としで、また家庭の一員として、同時に地域(社会)の一員として、(さらには、労働者のひとりとして、或るグループや共同体の一員として、また国民・市民のひとりとして…)私たちは生きています。


 「地域づくり」の課題は、すでに以前より自覚的なテーマとはなっていますが、実際には多くの困難をかかえているのが実情ではないでしょうか。


 地域における自治活動が民主的にすすめられ、住民主体の町づくりとして組織化されていくのは、各地で直面している具体的な地域の共通課題を、ひとつひとつ力を合せて共に取り組んでいくなかで、徐々に実現していくのだと思います。
部落問題の解決は、このような最も身近かな私たち自身の足もとから、確かな土台が築かれていくのですから。