「部落問題との出合いー神戸からの個人的報告」(第6回・最終回)(1995年、野洲キリスト教会)


宮崎潤二さんの作品「自由歩道でアコーデオンを弾く男・モスクワにて」


             *       *


            部落問題との出合い(第6回・最終回)


            神戸からの個人的報告


          1995年 野洲キリスト教


        6 キリスト教と現代(在家キリスト教


 さて、ここで少し「番町出合いの家」のことを話させて頂きます。私たちはこれまで実験的に、労働牧師、自立的な牧師の形を模索して歩んできましたので、教会の牧師として働いていたら経験できなかったような歩みをすることができました。そしてこのような歩みを促したものは、もともとキリスト教信仰そのものが促したものでした。つまりイエスの福音が、私たちをそのように促したのだということが出来ます。


 ここでは多くをお話できませんが、私は不思議なご縁で学生時代に滝沢克己先生の本に出合いました。この先生との出合いが、その後の歩みをとても「自由」なものにしました。


 滝沢先生は10年あまり前にお亡くなりになりましたが、先生の神学の特長は「インマヌエル」「神我等とともにいます」という、先程も少し触れましたように、信仰を持つ人も持たない人も、すでに神様はともにおられるという、基本的な理解です。実際イエスというお方の「自由の原点」はここにあったのでした。
 

 「神戸自立学校」のことは、はじめに少し触れましたが、毎月一回の読書会でずっと現在まで継続しています。どこかの教会に出席している人も、現在は教会から離れている人もいます。教派も色々です。ずっとそこで滝沢先生の本を中心に読んでいます。滝沢先生が亡くなられてから、毎月10頁ほどの「いぶき」というものも機関誌として出したりしています。


 自立学校の主宰者である延原さんは、日本の滝沢神学を欧米に紹介する目的で、米国のクレアモントという大学へ留学されて、米国のプロセス神学という面白い神学との対話を続けてこられました。10数年間米国とベルギーなどで教授活動もされ、5年前に新潟に新しい大学を設立するために招かれ帰国して、現在新潟県新発田というところを拠点に活躍中です。


 彼は外国にあっても「神戸自立学校」の大黒柱で、彼との交流で実に楽しい刺激的な歩みが出来ました。延原さんの主著は『仏教的キリスト教の真理』『無者のための福音』『3分間のおとずれ』『地球時代のおとずれ』などあて、『対話を越えて―仏教とキリスト教の相互変革の展望』『プロセス神学の展望』『とりなしの祈り』などの翻訳書もあります。
  

 米国の大きな宗教学会で「プロセス神学と西田学派仏教哲学」を開設しその座長を努め、日本と欧米の思想的な交流を継続して、注目を集めています。


 「出合いの家」はもともと固有名詞でなく普通名詞で、出合いはどこでも起こります。
 現在は毎日が神戸の部落問題研究所での仕事の関係で、そこでの「出合い」があります。ともに働く中で学びあうということで、皆さんが毎日なさっていることと変わりありません。家内は毎日あちこちにホームヘルパーにでかけています。いい出合いがあって、とてもいい仕事だなと思います。


 それでも振り返って思いますが、初めのゴム工場での経験がなんといっても強烈でした。私はゴム工場がどういうところなのか知らず、何の技術もありませんから、はじめは雑役でした。しかもロール場といって、ゴムの原料を柔らかくして薬品を混ぜ、大きなロールに巻き付かせてラバーに仕上げる工程です。凄い男たちの仕事現場でした。

 
 毎日、真っ白けになって、残業もあってクタクタになってです。そして当時は、何らかの事件のない日はないような地域での生活を経験させてもらいました。カトリックの神父さんやシスターの方々が見えたり、僧侶の方との出合いがあったり、「悪童会」とかいって不思議な交わりもできてきたり、現在では『賀川豊彦学会』とか『滝沢克己協会』とか、また『協同組合学会』などにも属して交わりを持ったり、地域のまちづくり協議会とか住宅促進協議会とか、神戸労働者協同組合などとの関係も続いていたり、また柄にも無いことですが、神戸保育専門学院や名古屋の近くの中京女子大学で集中講義などもさせていただいたりしています。


              7 震災以後


 そしてあの大震災以後、岩田健三郎さんの絵本『いのちが震えた』を出版させていただいて、楽しい思いをさせてもらいました。岩田さんとは古い付き合いですが、近年彼はフォークソングもやって、時々コンサートを開き、家内もそれが好きで、一緒にでかけます。毎年7月には「星祭コンサート」も開催され、4月には「姫路フォークサミット」といった全国から歌仲間が集まってきて、泊り込みの「新曲発表会」をいたします。


 地震は恐ろしいことでしたけれど、こんな『絵本』も作らせてもらったり、いっぱい嬉しい経験をさせてもらいました。先日この絵本の紹介が神戸新聞に載って、よく書けた記事ですのでコピーしておきました。いま「小さな出合いの家」の発行で、二つ目の絵本が出来つつあります。山上栄子先生の『ふうちゃんのじしんかいじゅう』という作品です。地震でストレスを負い、カウンセラーの必要な子供に読んでもらう絵本で、心理療法をされている山上先生の作品です。


 大地震で辛い経験をしたわけですが、やはりこうした小さな交わりが、大きな励ましになって、元気を取り戻していくのだと思います。皆さんのようなこうした小さな集まりが、心からおたがいを配慮しあって、無理をしないで学びあっていく、素晴らしいことだと思います。


 今私たちは思いがけないことですが、これまで住み慣れた地域から離れて、空気のおいしい、緑も多いところで、さらに毎日通勤途中に、須磨の海を眺めることのできる、大変環境に恵まれた住宅が与えられて、しばらくの間は、ここで暮します。


 現在、これまで住んでいた14階建ての住宅を壊し始めていますが、新しく建設されましたら戻り入居が可能ですので、元に戻りそこでまた「番町出合いの家」になります。


 またこれも不思議ですが、べーチエット氏病という難病で長い間、特別の治療を継続してきましたが、この大震災のあと、続いていた症状がすっと消えてしまいました。かかりつけの先生も不思議がっておられますが、この10月31日で15年間あまり飲み続けた薬を、ここで休んでみることの致しました。
 

 家内も地震以後身体の痛みに苦しみましたが、ようやく最近になって痛みが取れて、少しずつホームヘルパーの仕事にでかけるようになりました。
 まだまだ、というよりこれからますます、震災後の問題が浮き彫りになってくるなかで、町の復興と生活の再建のためにも出来ることをしていきたいと思っています。


 長いばかりで、とりとめのないお話をしてしまいました。自分自身を振り返る、よい機会をいただいて有難いことでした。取敢えずこれで終らせていただきます。長時間どうもありがとうございました。