「新しい時代を迎えるー神戸における小さな経験から」(第5回・最終回)(高砂高校、1999年11月12日)


今回の第5回目で最終回です。



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       新しい時代を迎える(第5回・最終回)


           神戸における小さな経験から


           高砂高校 1999年11月12日


    (前回のつづき)


                ☆☆☆☆☆


 私たちが一番うれしかったことは、私たちのような「流れ者」が、地域の中で、何のわだかまりもなしに受け入れられたことです。
 もともと「垣根はない」のです。


 はじめ、私たちは20代の青年でした。ちょうどそのころ、地域の解放運動が動き始めたときでした。


 青年達を中心に、仕事を安定させるために自動車の運転免許を助け合って取ろうという住民運動がはじまったばかりでした。


 また、お母さんたちが中心になって「生活の自立と助け合い運動」を「組合」を作って取り組もうとしていました。


 はじめから私達は、そうした仲間に入れてもらって、共に歩むことができました。
 ゴム工場の残業を終えて、みんなで自動車学校入学のための予備学習をかさねて、普通自動車の運転免許を取りました。
 そのときに、多くの友達ができました。


 そして、当時まだ「自治会」の組織化ができていませんでしたので、「自治会」や「子供会」などをつくる取り組みにも参加して、楽しく頑張りました。

 
 特に、住宅環境の改善が大きな課題でしたから、地域の住民と行政の方々が共に協力して進めなければうまく行きません。 

 
 私たちの地域は大きくて、全体で16の町内会ができました。それぞれに子供会がつくられて、自治会と各種の団体が協力して「住宅促進協議会」をつくり、頑張ってきたわけです。


 同じ地域に生活しているものが、すべて差別なく、私たちのような「流れ者」も、国籍の違う在日外国人の方々も、同じように「まちづくりの主役」になって頑張ってきました。

               ☆☆☆☆


 また、ついでにもう一つ自慢をさせていただきます。
 

 私達は、単に「差別をなくす」ことだけが目的ではなく、「垣根なく・共に・自立して・協同して生きて行く」ことを出発点にして、歩んできました。


 10数年前から、二つの「協同組合」をスタートさせました。
 ひとつは、「ワーカーズ・コープ」という取り組みです。
 これは、世界的な取り組みで、日本では「労働者協同組合」とよばれています。
 「協同組合」ですから、基本は非営利で、誰かに雇われるというより、自分たちがお金を出し・自分たちで仕事をつくり・運営する組織です。


 ホームヘルパーとか高齢者のお宅へ弁当を届けたりする食事のサービス、埋蔵文化財の発掘の仕事、公園などの清掃作業、庭木の剪定、ビルの管理、住宅の改修・新築などなど。
 次々と、地域に役立つ「よい仕事」を、自分たちで開拓する! という取り組みです。


                ☆☆☆☆


 震災の後、ワーカーズ・コープが中心になって「高齢者の協同組合」をつくりました。
 これが核になって、今年6月には「兵庫県高齢者生活協同組合」を立ち上げました。来週の日曜日(21日)には、設立記念のイベントを神戸でいたします。

 
 今年の春は、この近くの加古川で「ヘルパー2級講座」を開講して、先日加古川にも、新しい事務所を開設いたしました。皆さんも、こうした福祉・医療の分野で仕事をしたいと、ひそかに志望をしておられるかも知れませんね。


                ☆☆☆


 神戸でもう一つ、父母とこどもたちの取り組みで「教育文化協同組合」があります。
 いずれも、従来の「わく」をはずした「新しい住民運動」です。

 
            結  語


 私たちは、これまでこうして激動の日々を、神戸の下町で歩んできました。
 この間、思いがけない事故や病気や、さらには大震災までも、経験させていただいて現在を迎えています。


 地域の中で、ひとりの住民として、この1年あまりは住宅の管理人までさせてもらっています。

 地域の「まちづくり」や、「ワーカーズコープ」「高齢者生協」、「部落問題研究所」の仕事や「大学や保育専門学院」での講義や、もちろん「牧師」の仕事や、多くの「非営利・協同」の輪がひろがっています。


                ☆☆☆


 そうです。申し遅れましたが、私は神戸に来てから「フォ−クソングの世界」に引かれています。日本のフォークは、1960年代に高石友也岡林信康高田渡など、面白いキャラクターが口火をきって、おもしろい歴史を重ねて今日を迎えています。


 いま私達がお付き合いをしているグループは、『笠木透と雑花塾』です。
 笠木さんはこの世界の大御所ですが、メンバーの一人が姫路の版画家・岩田健三郎さん夫妻がおられます。姫路ではよくコンサートが開催されますから、機会があればぜひ!


               ☆☆☆☆


自分たちで「うた」をつくり「語り合う」。CDはもちろん絵本などもつくります。
 私達は、岩田さんの作品で『いのちが震えた』という震災の記録や岩田さんの青春を書き込んだ絵本『めだかのダンス』も出版して、多くの方々に見て頂いています。これは、みなさんへのお土産です。図書館に寄贈させていただきます。どうぞ、読んで見て下さい!


                ☆☆☆


 わたしはずっと大切にしてきていることがあります。
 それは、はじめに申し上げた「確かな基礎・土台」を支えにして、いつも「喜んで生きる!」ということです。存分に喜んで「自己表現」をしていく!


 私達は、誰でも、心底「よろこんで」生きることができるようにできている!
だから、私も喜んで生きる! 喜んで苦労する! 本気で、喜んで勉強する!! 

  
 「人権を享有する」と言いますが、「享有」はエンジョイメントと申します。楽しむ・持ち味を発揮する。自己実現する!
 皆さんの、これからの人生、どんな花が咲くか、私は楽しみにしています!


                ☆☆☆


 皆さんも良くご存じですが、最近童謡詩人の「金子みすず」さんが大変人気があります。
 有名なうたに「私と小鳥と鈴と」という短い作品があります。


             私が両手を広げても、
             お空はちっとも飛べないが、
             飛べる小鳥は私のように、
             じべたをはやくは走れない。


             私がからだをゆすっても、
             きれいな音は出ないけど、
             あの鳴る鈴は私のように、
             たくさんなうたは知らないよ。

  
             鈴と、小鳥と、それからわたし、
             みんなちがってみんないい」


 「みんなちがって、みんないい」!


 無条件に、受け入れられて、「絶対肯定」されて、祝福されている!
 こういう「確かな」基礎がある! 「驚き」ですね。  


                ☆☆☆☆


 今日の題を「新しい時代をむかえて」とさせていただきました。私たちが関係できた「部落問題解決の歩み」も、確かに「新しい時代」を迎えつつあります。しかしそればかりではありません。


 皆さんのこれから生きる新しい21世紀は、これまでの長い歴史を背負って、古い歴史を乗り越えて、「新しい時代」を創造していかれます。
星野道夫さんの生前最後の本となった『アフリカ旅日記』のことを、最初に申しました。
 本日のお話しの結びに、この『アフリカ旅日記』の「最後のことば」を紹介して、私のお話を終わりにしたいと思います。134頁から。


 「最後の夜、・・・ ルーツ・アンド・シューツ(根っこと新芽)。

 「そのメッセージは、私達ひとりひとりが一生において果たす、それぞれ大切な役割をもっていて、もうそうしたいと思って努力すれば、この世界は、ほんの少しずつよい方向へと変えることができる・・・・・私達のアフリカの旅の終わりだった・・・」


星野さんは亡くなりましたが、皆さんはこれから新しい世紀・21世紀を生きていかれます。「確かな『根っこ』」をはって、大地のいのちに養われて、ひとりひとりの「新しい芽」「新芽」を育て育んで、世界に羽ばたいていかれることを、こころから期待しております。 長時間、ありがとうございました。